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  3. 第16回「臓器や組織、細胞、ウィルスからのメッセージを通訳してお伝えする」というのが、私の診療の特色といえるでしょうか。

第16回
それほどアントロポゾフィー医学というものが山本先生に大きなインパクトを与えたんですね。具体的にいうとどういう医学なんでしょうか?
一言で説明するのは難しいですが、“現代の西洋医学を基盤にして拡張していく医学”という言い方ができます。また“精神の内なる発展と魂の変容についての認識と理解を深めることで、ホリスティック(全人的)な取り組みへと導いていくもの”という表現もできると思います。いつも講座で使っているレジメをみながら説明しますと・・・

アントロポゾフィー医学では、人間の体が4つの構成要素(物質体、エーテル体、アストラル体、自我)で構成されているという捉え方、それぞれに地(鉱物界)、水(植物界)、風(動物界)、火(人間界)という自然界の4つの要素が対応しています。

さらに覚えておくと日常の様々な場面での理解に役立つのが「三分節」という考え方です。人間の体の構造や機能を、頭部(神経系/思考)、胸部(リズム系/感情)、腹部(四肢・代謝系/意志)という3つの分節に分けて考えるんです。身体の部分部分、さらには細胞や血液内のミクロの成分まで三分節の働きをもっていることがわかります。これは信じてくださいというより、それぞれの分野の専門家が専門的知識で確かめていける性質のものです。

それから、人間は十二星座と七惑星によって形づくられ、動きを与えられていること、その概念を用いて診断や治療に役立つこと等々です。赤ちゃんは十日十日の間にお母さんのお腹の中で目や耳がつくられますが、その芸術的・精妙なつくられ方の背景に惑星や星座の働きがあるということをきちんと認識していくことができます。

※6 アントロポゾフィー医学……レジメの補足
アントロポゾフィー医学の治療法には、自然治癒力を高める医薬品や、物理療法(薬用オイルによるマッサージ、入浴療法、ハーブを用いた湿布など)、オイリュトミー療法、芸術療法(音楽療法、絵画療法など)などがあり、いずれも生体の自然治癒力を高めることを目的としている。
う~ん。アントロポゾフィー医学がホリスティックかつ理論的だというのは分かりましたが、理解するのが難しいですね(笑)。実際にはクリニックでどのように診療されているんですか?
ホリスティック医学、アントロポゾフィー医学と、私の中で進展してきている歴史があって診療の内容も変化してきています。でも元々このクリニックは、“医療と福祉を結ぶ”という理念で誕生した経緯がありますので、地元の人たちの風邪や高血圧や痛み等々を丁寧に診ることが中心です。

周囲に福祉マンションはじめグループホームや福祉の施設がこの20年の間に毎年1施設のペースで増えてきています。複数の訪問看護ステーションの方々との連携で、在宅医療も積極的に行っていますし、自宅での看取りも町医者として大切な役目だと思っています。看護師さんたちが常にサポートの中心にいてくれますが、鍼灸師、カウンセラーの仲間たちと始めたチーム医療も、今ではオイリュトミー療法、芸術療法、音楽療法の療法士さんたちとの協働作業が多くなってきています。

でも変わらないのは、患者さんの求めに応じた治癒のお手伝いをするということです。どうしても3分間診療では治りきらない患者さんが自然に集まってきますし、心と体を一つのものとして捉えるという私の診療スタイルに共鳴して遠方から来られる方がいらっしゃいます。私にとって、現代医学的には難題といえるような病態を携えてきてくださる方々は、私の成長を応援してくれているように感じています。

開業したばかりの頃、「膝が痛いんです」と言ってクリニックに来られた患者さんに「膝の言い分を聴いてみましょう」と思わず口をついて出たことがあります。整形外科医ほど膝の痛みを診ているわけではないのですが、その人が求める答にすぐにたどり着いて痛みも軽減してくれたことで、その後少しずつさまになり、通訳する部位やジャンルの幅が広がっていった感じですね。「臓器や組織、細胞、ウィルスからのメッセージを通訳してお伝えする」というのが、私の診療の特色といえるでしょうか。ただ、この通訳という作業は、あくまで私が臨床経験を積んで得たスタイルで、私の個性によるものです。

アントロポゾフィーの認定医は私を含め現在6名で、来年には12名くらいになりそうですが、それぞれの専門分野で、それぞれの個性を生かして診療されています。むしろ個性的であることが大切ですし、共通するのは、アントロポゾフィーの認識の道を深め、患者さんに寄り添う診療をしているということですね。
体からのメッセージを通訳する、とは面白いですね。私の友人も以前、動悸に悩んで山本先生のクリニックにお世話になったことがあります。その時に山本先生から、「あなたの心臓を助けるために小腸が頑張っていますので、小腸への感謝の気持ちが大切です。肝臓は怒りを感謝に、腎臓は恐怖を安心に変えるくれる器官ですが、小腸は恨み辛みを消化して慈愛の心に変える働きをしているんですよ」と言われたんだとか。その当時、彼女は確かに父親に対する積年の恨み辛みを溜めた挙句、暴言を吐いた後に体調が悪くなったので、先生に言われたことがすんなりと理解できたとのことでした。そして、家庭環境のことなど詳細に語ったわけでもないのに、先生が何故そんなことを言うんだろうと不思議に思った、という話をしてくれたことがあります。

また他の患者さんで、先生が問診の際、カルテに家系図を書かれてご先祖の病気やその病気の意味を医学的に解説してくれて、後始末や朝夕の挨拶等、必要な実践ポイントを幾つかアドバイスされて、その通りに実践すると確かに血圧が下がったという話をどこかで聞いたそうで、それにも驚いていましたよ(※山本先生は特定の宗教団体には属していらっしゃいません)。日々、たくさんの患者さんを診ていらっしゃると、そういうまるで霊感とも思えるような能力も磨かれてくるんでしょうか。
う~ん、心身医学のパイオニアたちへの憧れから、見よう見まねで身につけたと言えるかもしれませんが、職人というのは本来そういうものだと思いますよ。例えば肺癌患者さんのオペを何百例とされてこられたある有名な教授は、二次元のレントゲン画像が三次元の立体になって見えるという話を聞きました。そこまで精通してくると、ガン細胞の状態が手に取るように分かるんだと言うんですね。何度も何度も同じ道を進んでいるうちに、いわば職人芸の域に達するのだと思います。それはどんな道を歩んでいる人でも同じなんじゃないでしょうか。
でも、普通からしてみればやはり不思議な診療ですよね。肉体以外の見えない世界のことも扱われるわけですから。
そうですね。だからこそ、アントロポゾフィー医学の果たすべき役割は大きいんです。体系的な理論がしっかりとあることによって、診療内容を医者が理解するだけでなく患者さんにも第三者にも分かりやすい言葉で説明できるからです。
シュタイナー博士は、人知を超えた霊的な事柄についても、理性的な態度を伴った自然科学的な態度で探求するということを最も重要視していたそうですからね。
ええ。以前、日本ホリスティック医学協会主催のスピリチュアリティとエネルギー・ケアの講座で、“アントロポゾフィー医学とエドガー・ケイシー療法との対話”という企画を相方(前出の降矢英成先生)が企画されたことがありました。その時に私はケイシーが残した様々なリーディングを拝見して、内容について勉強しました。それで理解が深まったのは、ケイシーの伝える内容というよりも、アントロポゾフィー医学とはこういうことなんだなという自分の専門領域についてでした。

必死になってケイシー、つまり相手のことを理解しようとした瞬間に、相手であるケイシーが鏡となってアントロポゾフィー医学のすべき役目や立ち位置を明確に映し出してくれたんです。ケイシーは催眠状態のなかでクライアントに必要な情報を得ていましたが、アントロポゾフィーの場合は決して無意識の領域からではなく、覚醒した意識の領域から思考によって答を導き出すというところに違いがあります。

ですから、例えばケイシーがリーディング、つまり霊的な能力によって「この人の病気にはひまし油が効く」という情報を得たとするなら、アントロポゾフィー医学ではそのひまし油とは何なのか?どこにどういう治癒のメカニズムが働くのか?ということをきちんと理解し、説明するということに意義があります。アントロポゾフィー医学では、ケイシー療法に限らず様々な治療法の素晴らしさを「認識する」ためのお手伝いをする、という立ち位置にあるのではないかと。
なるほど。ホリスティックな治療を怪しい世界のものにするのではなく(笑)、きちんと体系的に説明することで患者の理解を促すことができるのが、アントロポゾフィー医学だということですね。
ええ。ですから世界には、時代・地域によって様々な医療がありますし、どのスタイルがいいとは一概に言えないでしょう。西洋医学の医師の中には、ホメオパシーを否定する人が多くいますし、排除しようとする動きも理解できないわけではないのですが、アントロポゾフィー医学は、この両者にも橋渡しすることが可能です。医療は、時代の進化に応じてアップデートさせていく必要はあるわけで、そのお手伝い役を担うのがアントロポゾフィー医学であり、役割の真髄かなという気がしていますね。

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